大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成4年(ワ)8412号 判決 1994年8月24日

原告

中井光治

被告

高分子防水株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金六四万七一〇〇円及び内金三四万六〇〇〇円に対する平成四年一〇月三日から、内金三〇万一一〇〇円に対する平成五年八月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを六分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金四三四万一七〇〇円及び内金一五九万一七〇〇円に対する平成四年一〇月三日から、内金二七五万円に対する平成五年八月二八日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、追突事故で傷害を受けた被追突車両運転者が追突車両運転者に対し、民法七〇九条により人損・物損の損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実など(書証及び弁論の全趣旨により明らかに認められるものを含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成三年一二月二〇日午後二時五分ころ

(2) 発生場所 大阪市西区北堀江一丁目七番六号先路上(以下「本件事故現場」という。)

(3) 加害車両 被告牧田孝弘(以下「被告牧田」という。)運転の普通乗用自動車(泉五九た四三二九、以下「被告車」という。)

(4) 被害車両 原告所有、運転の普通乗用自動車(なにわ三三て四三一一、以下「原告車」という。)

(5) 事故態様 原告車に被告車が追突したもの

2  被告らの責任(弁論の全趣旨)

本件事故は、被告高分子防水株式会社(以下「被告会社」という。)の業務に従事中の従業員である被告牧田がその過失により惹起させたもので、被告牧田は民法七〇九条により、被告会社は同法七一五条により原告の被った損害につき、賠償責任を負う。

二  争点

1  原告の受傷の有無・程度、後遺障害の有無・程度

(1) 原告

本件事故により、頸部捻挫、頸部椎間板障害の傷害を負い、平成五年二月一三日に症状固定したが、第二・第三、第三・第四、第四・第五各頸椎椎間板に障害があり、このため、頸部の伸屈制限が軽度に残存し、頸部の伸屈を強制すると後頸部痛が出るという後遺障害が残存した。右の後遺障害は自賠法施行令二条別表の第一四級一〇号に該当する。

(2) 被告ら

本件事故は軽微なもので、頸椎椎間板障害を受けることはない。仮に右障害が存するとしても、原告が大学在学中アメリカンフツトボールクラブに所属して競技をしたことによるもので、本件事故との相当因果関係は認められない。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  原告の受傷の有無・程度、後遺障害の有無・程度

1  証拠(甲一の2、二、三、四、六、一二、乙二、検乙一ないし一〇、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故現場は東西に延びる、最高速度時速五〇キロメートルに制限された、長堀通りの四車線ある西行車線の第二車線上である。被告車は原告車の一六・六メートル後方を追従していたが、被告牧田が脇見をしたため、原告車が対面赤信号で停止していたのを五・九メートル先に発見し、直ちに右ハンドルを切るとともに急ブレーキをかけたが及ばず、被告車の左前部が原告車右後部に追突した。原告車は、追突後、後部が右にぶれ、左前側面が左車線に停止中の車両と接触し、二・四メートル押し出されて停止した。

原告車には右後部バンパー、リア部に軽微な損傷が、被告車の前部バンパ凹損、ボンネツト、フロントグリル破損等の損傷が生じた。

なお、原告は、被告牧田が脇見をしているのをミラーで現認し、追突を予期して、サイドブレーキを引き、フツトブレーキを踏み、両手でハンドルを持つて踏ん張つた状態で追突され、さほど衝撃は感じなかつたものの、追突直後、嘔吐した。

(2) 原告は、本件事故後、大野記念病院で受診した。当日の原告の症状は、レントゲン撮影で異常は認められなかつたが、吐き気と一回嘔吐し、吐き気があると訴えたほか、右後頸部痛を訴え、頸部捻挫と診断された。平成四年二月二七日から同年三月二日まで六日間の精査目的の入院を挟み、平成三年一二月二〇日から、平成五年二月一三日まで通院治療した(実通院日数四三日)。

その間、項部痛、頭痛、頸部の可動域制限を訴え、平成四年一月二〇日のMRIによる検査では、第四・第五頸推椎間板に膨隆が認められた。症状が続くため、前記のとおり精査目的で入院し、平成五年二月二六日ミエログラフイー(脊髄造影術)を施行したところ、第四・第五頸椎椎間板にマイルドな変化を認めた。

平成四年三月五日の症状は、後屈時に後頸部痛、頸部の不安定感を訴え、同月末も同様の症状を訴えていたが、五月三〇日には後屈時に後頸部痛は訴えるが、日常生活には支障をきたさないとリハビリ担当者は所見を示している。

原告の通院治療状況は、平成四年三月に退院後、同年四月から同年八月まで毎月一日ないし二日通院して介達牽引療法のみの治療がなされ、その後通院することなく、平成五年二月一三日通院し、後記のとおり後遺障害診断書が作成された。なお、原告は、平成四年三月末に大学を卒業し、同年四月から就職し、二か月弱、滋賀県下で泊込みの新人研修を受けていたため四月から五月末までは通院が困難であつた事情もあつた。

(3) 原告は、尾本はり灸院に平成四年一月七日から同月二八日まで通院した。同院では反射等には異常はなかつたが、項部・肩上部の筋肉が硬くなり、頸部の運動部痛(後屈、側屈、回旋時)、C2/3、C3/4に圧痛が認められた。

(4) 大野記念病院で平成五年二月一三日症状固定と診断されたが、自覚症状として、頸部伸展制限を訴え、伸展を強制すると後頸部痛が認められた。しかしながら、日常生活動作には異常はなかつた。

(5) 原告は、平成六年三月現在、日常生活に支障はなく、後屈時の頸部痛はほとんど気にならない状態である。

以上の事実が認められる。

2  右の被告車の損傷状況、原告車の追突後停止までの距離、衝突後の嘔吐等に照らすと、原告が本件事故により頸部捻挫の傷害を負つたことが認められ、その通院治療経過、症状の改善状況、大野記念病院の後遺障害診断書作成時期の症状を総合考慮すると、平成四年五月末には、後屈時の頸部痛が残存してはいたが、日常生活動作にも支障がなく、この段階で症状が固定したと認めるのが相当である。

また、頸椎椎間板膨隆については、本件事故を原告が予期し、それほど衝撃を感じなかつたものであること、さしたる神経学的所見も認められなかつたことによると、右膨隆が本件事故により発現したのか、原告の症状が、右膨隆によるものか、疑問が残り、本件事故との因果関係を認めることはできない。

さらに、原告の後屈時の頸部痛については、前記のとおり日常生活動作に影響をもたらすものではなく、研修期間終了後通院が可能となつても、平成四年八月まで月一、二回程度通院したのみで、その後は後遺障害診断書作成時まで全く通院していないこと、現在ほとんど気にならない状態であることなどの前記事実に照らすと、後遺障害とは認められない。

二  損害額(括弧内は原告主張額)

1  傷害慰謝料(五〇万円) 二四万一一〇〇円

原告は、傷害慰謝料として、自賠責支給分三五万八九〇〇円に加え、なお五〇万円を請求するものであるが、前記認定の傷害の部位・程度、入通院期間に加え、原告の就職時期と重なつたこと、就職先から期待されていたスポーツ活動が結局できなくなつたこと(原告本人)などの諸事情を考慮すると、原告の慰謝料としては六〇万円が相当であり、自賠責支給分を控除すると、二四万一一〇〇円となる。

2  後遺障害による逸失利益(一二五万円) 〇円

前記のとおり後遺障害を認定できず、また、就労にあたつての具体的支障等も明らかでなく、後遺障害による逸失利益を認めることはできない。

3  後遺障害慰謝料(一〇〇万円) 〇円

前記のとおり後遺障害を認定できず、慰謝料を認めることはできない。

4  修理費(三四万六〇〇〇円) 三四万六〇〇〇円

前記認定事実に加え、証拠(甲六、一二、原告本人)によると、原告車は追突され、後部バンパー、フエンダー部分に損傷を受けたばかりでなく、右ハンドルを切つた被告車が右後部に衝突したため、後部が右にぶれ、当然ながら前部が左にぶれたため、左車線の停止車両に接触し、左サイドミラー、ボンネツトに損傷が生じたことが認められる。右によれば、原告主張の三四万六〇〇〇円は修理代金として相当ということになる。

なお、被告らは、ボンネツト、左後部フエンダー、前部ボンネツト、左サイドミラーに損傷はなかつたと主張するが、原告本人尋問における事故状況についての供述は具体性に富み、不合理な点はなく、また、現在の症状についての供述も気にならない程度であるなどと被害を過大に訴えるところもなく、かかる供述態度・内容に照らすと、原告車の損傷についての供述は信用することができ、被告らの右主張に沿う乙三は採用することができない(確かに、原告は、当初、全塗装を要求するなど過大な要求をしていたものであるが、これをもつて、修理を全く要しない部分に手を加えたとは認められず、また、後部フエンダーに歪みがなかつたとしても、傷のため塗装を要することがあるのはいうまでもなく、後部フエンダーの板金修理が見積もられていないことをもつて、後部フエンダーの塗装は不要であつたとはいえない。)。

5  代車料(一二六万八九六〇円) 〇円

証拠(甲九ないし一一、原告本人)によれば、原告は、大学のクラブのOBへの挨拶回りのため、平成四年一月一〇日から同年二月二〇日までのうち四〇日間、レンタカーとしてベンツを使用し、代金六〇万円を要したことが認められる。

しかしながら、他方、証拠(甲一二、原告本人)によれば、原告車の損傷に要する修理期間は五日ないし一週間程度であること、修理に着手するのが遅れたのは、原告・被告ら間の交渉が難航したことが原因であるが、その大半は、原告が、原告車が平成三年一〇月に購入したばかりの新車(トヨタ・ソアラ)であつたことから、当初、新車を要求し、新車要求を撤回したのちも、本件事故による損傷の程度では部分塗装で足りるにもかかわらず全部塗装を要求するなど、過大な要求を被告ら側にしたためであったことが認められる。

そうすると、原告が過大な要求をしなければ、レンタカーを借り入れた平成四年一月一〇日までに修理を終えていたと推認することができ、原告の代車使用は本件事故と相当因果関係を認めることはできない。

6  CDプレーヤー代(一〇万〇七〇〇円) 〇円

本件事故により、CDプレーヤーに損傷が生じたこと、その損害額について何ら証拠はなく、認めることはできない。

7  評価損(五四万五〇〇〇円) 〇円

証拠(甲六、原告本人)によれば、原告車は、平成三年九月初度登録をし、本件事故当時三九二〇キロメートル走行した国産車であり、本件事故により後部及び前部に損傷を受けたが、前記修理後、特段の不具合も認められず、原告が使用を継続していることが認められる。

ところで、本来、車両の損害は修理によつて原状回復がなされたと認めるのが相当であり、損傷の程度により修理によつても完全に修復しえない欠陥が残存し、客観的価値の低下が認められる場合には評価損を認めるべきであるが、右事実によれば、このような事実も認められず、評価損は認められない。

8  小計

右によると、原告の本件事故による、未だに填補されていない損害額は、五八万七一〇〇円となる。

9  弁護士費用(認容額の一割) 六万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は六万円と認めるのが相当である。

二  まとめ

以上によると、原告の本件請求は、被告ら各自に対し金六四万七一〇〇円及び内金三四万六〇〇〇円(物損分)に対する訴状送達の日の翌日である平成四年一〇月三日から、内金三〇万一一〇〇円(人損、弁護士費用)に対する請求拡張申立が送達された日の翌日である平成五年八月二八日から、各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

(裁判官 髙野裕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例